= Nicolette Larson 「溢れ出る愛」 =


 彼女のどの部分を取り上げたら良いのか、正直迷います。私自身も彼女のデビューアルバムしか聴いたことがなく、その印象はジャケット写真の愛い苦しいイメージと、音楽的にはウェストコーストミュージシャンが多勢に参加しているにも関わらず、それを感じさせない多少ソウルかかった、そして多少土の匂いがするポップなイメージが有ります。このアルバムは、テッド・テンプルマンとリンダ・ロンシュタットのバックアップで仕上がっていますが、当時の女性シンガー、リンダやカーラ・ボノフらの作品とは全く色が違います。

 彼女は、父親が米財務省勤務であった為、幼い頃からアメリカ各地を転々とし、その各地の音楽を好きで吸収したことが、彼女の音楽の土台になったと言われています。また、もともとプロのシンガーを目指していたわけでなく、彼女の歌を聴いた者達が後押しをしたそうです。但し、彼女は音楽業界で仕事(コンサートを企画・運営する会社だったそうです)をしていたので、その歌を聴いた者達はそうそうたる面子だったようです。

 80年を前後して、ミュージックシーンは大きく変化していきます。当時ニューウェーブという言葉が頻繁に使われていましたが、ディスコサウンドなどの台頭から、多くの70年代のバンドやアーティストが方向転換を余儀なくされていきます。私たちの知るイーグルス、ポコ、ドゥビーも例外でなく、そして彼女もその渦中にいました。当時の恋人アンドリュー・ゴールドによってプロデュースされたアルバム「All Dressed Up & No Place To Go」はそういった中で作られた、当時の流行を意識して作られた作品ですが、振るわず、これを境にカントリー歌手として方向転換するのです。70年代ほどの名声は得られませんでしたが、それでも1984、1985年と続いてキャッシュボックス誌で賞を受賞しています。

 80年代後半には、活動を女優業まで広げますが、90年にラス・カンケルと結婚し、同年子供を授かると、子育てに専念する形で半リタイア状態になります。94年のアルバム「Sleep, Baby, Sleep」が遺作になってしまいましたが、かつての恋人アンドリュー・ゴールドと共同プロデュースをし、彼女自身も作曲を手掛けています。母親が子供に聴かせる子守唄がコンセプトで、その後リンダもこの手のアルバムを作るなど、多くのアーティストに影響を与えたようです。

 1997年12月17日、脳腫瘍によりラス・カンケルとの間に生まれた愛娘を残し、45歳の若さで他界しています。彼女の追悼コンサートには数多くのミュージシャンが参加し、多くの者から、妹のように愛されていたことを象徴するものであったそうです。ご冥福と同時に、残されたご家族の幸福をお祈りします。



ソロデビューは78年と遅いですが、彼女がボーカル参加した作品は70年のTroy Newman 「Gypsy Moon」まで遡れ、次に74年のNeil Young「American Stars 'N Bars」が有ります。
デビューアルバム「Nicolette」の収録された「Lotta Love」はニールヤングの曲で、彼の車に転がっていたデモテープを聴いて、譲ってもらったそうです。
アーノルド・シュワルツネガーの映画「ツインズ(92)」でもキャバレーで歌うシンガーとして顔を見せています。但し、この時期はもう“おばちゃん”ですので若い頃のイメージは全く有りませんが。


Discography
Nicolette(78):Produced by Teddy Templeman
Just In The Nick Of Time(79):Produced by Teddy Templeman
Radioland(80):Produced by Ted Templeman
All Dressed Up & No Place To Go(82):Produced by Andrew Gold
Say When (85): Produced by Emory Gordy, Jr. And Tony Brown
Rose Of My Heart (86):Produced by Emory Gordy, Jr. and Tony Brown
Sleep, Baby, Sleep (94):Produced And Arranged by Andrew Gold And Nicolette Larson




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