= 酔いどれ詩人 Tom Waits =


 EAGLESファンには「OL'55」の作者として有名ですね。Bruce SpringsteenやRod Stewartも彼の歌をとりあげていて、ミュージシャンにも信奉者が多いことは有名です。普通、ウェストコーストのシンガーソングライターは、リンダ・ロンシュタットなどの女性シンガーが曲を採り上げて有名になるのですが、さすがに彼の曲は採り上げていませんね、ライブは知りませんが。

 彼の作品を大きく別けると、アサイラム時代とアイランド時代に分かれます。最新作では既にアイランドから離れています。

 アサイラム時代の彼の音楽は、爽やかなイメージのウェストコーストサウンドからはかけ離れ、決して青空の下で聴こうなんて言えるものではありません。かと言って、都会の洒落たバーなんぞも似合いません。酒(バーボンのストレート)と煙草と場末のバー、これです、これ以外ありません。

 彼は酒で喉が潰れたダミ声のイメージが有りますが、2作目の「土曜日の夜」まではさほど潰れていません。誰でも聴けるアルバムは1作目の「Closing Time」(73)、よくて2作目の「土曜日の夜」(74)まででしょう。前者は、場末のバーで弾き語ったような、何とも言えない数珠の名作集です。人によっては暗いと言うかもしれませんが。そして、20代前半でそのスタイルを完成させてしまうところに、彼の非凡な才能があるのかもしれません。

 でも本当の彼の評価はそれ以降なんです。特に6作目の「Blue Valentine」(78)はジャジーな素晴らしい作品です。前述のスプリングスティーンやロッドが取り上げた曲は、7枚目の「Heartattack & Vine」(80)に収められた曲です。

 同時にこの時期になるとちょい役で主にコッポラの映画に顔を出します。映画「Paradise Alley」(スタローンが歌を歌っていることで話題にはなりましたが、興行成績は振るいませんでした)は彼の最初の映画だそうですが、提供した2曲は素晴らしい作品です。ちなみに「アウトサイダー」でも顔を出していますよ。

 一方、アイランドに移ってからの彼は本格的に役者業(舞台)をしたり、音楽もガラッと変わり、無国籍・エスニックな音楽になってしまいます。普通、過去の音楽を捨てて、ここまで変ることはできないと思います。

 イメージ的には、熱帯地方の小汚い食堂で、天井に付いた大きな扇風機の下、汗を流しならが飲む地ビールです、バドワイザーやスーパードライでは駄目です。それでも、「Swordfishtrombones(83)」「Rain Dogs(85)」「Franks Wild Years(87)」の3部作は評価が高いです。私も好きです、誰にでも薦められる作品ではありませんが。


追記
 12月になって、「The Dime Store Novels Vol1」という74年のライブ音源がリリースされました(レーベルはアサイラムではありません)。公式盤でのライブ音源は「Nighthawks at the Dinner(75)」しか無いので、彼のファンには貴重な物となるでしょう。



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