臨時5号 Warren Zevon 『Wind』 =


 2003年7月のある日、ふとWarren Zevonを検索すると衝撃的な記事が飛び込んできました。それによると、彼は2002年9月に末期癌の宣告を受け、一切の治療を拒み、最後になるかもしれないアルバム作りに取り込んでいるということでした。

 そしてその新譜をやっと手に入れることができました。

 この作品には、彼の新旧の友人が数多く参加しています。EaglesのメンバーではDon Henley、Joe Walsh、Timothy Schmitそしてウェストコースト近辺のミュージシャンではJackson Browne、David Lindley、Emmylou Harris、Ry Cooder、他からはTom Petty、そしてBruce SpringsteenまでもがZevonの為に参加しています。

 (Don Henleyは以前からZevonの才能を高く評価しており、ことあるごとに彼の不遇を訴えていました。)


収録曲
 1. DIRTY LIFE AND TIMES − Ry Cooder(g)-Don Henley(dr)他
 2. DISORDER IN THE HOUSE − Bruce Springsteen(g/bv)他
 3. KNOCKIN' ON THRE HEAVEN'S DOOR − Tommy Shaw(g)-John Wait(bv)他
 4. NUMB AS A STATUE − David Lindley(lapsteel guiter)-Jim Keltner(dr)他
 5. SHE'S TOO GOOG TO ME − Don Henley & Timothy Schmit(bv)他
 6. PRISON GROVE − Ry Cooder, David Lindley, Bruce Springsteen, Jackson Browne他
 7. AL AMOR DE MI VIDA − Jim Keltner(dr)-James Raymond(piano)他
 8. THE REST OF THE NIGHT − Mike Cambell(g)-Tom Petty(bv)他
 9. PLEASE STAY − Emmylou Harris(bv)他
10. RUB ME RAW − Joe Walsh(slide guiter)-Jim Keltner(dr)他
11. KEEP ME IN YOUR HEART − Jorge Calderon(g/b)-Jim Keltner(dr)

 g=guiter, bv=back vocal, dr=drums, b=bass



 Don Henleyが珍しく他人の作品でドラムを叩くカントリータッチの1曲目、Springsteenのバックボーカル&ギターとバトルしながらジボンが歌うストレートなR&R調の2曲目、Tom Pettyらがバックを勤めアサイラムのジボンを彷彿させる8曲目、Emmylouのバックボーカルが花を添える9曲目、一聴して分かる独特なJoeのスライドギターが炸裂する10曲目、そして最も現在のジボンの気持ちを率直に表しているのではと思える涙を誘う詩で最後を飾る11曲目、と言った具合に印象に残る曲はたくさんあります。あえて私はこのアルバム唯一のカバー曲、3曲目に注目しました。

 それは言わずと知れたボブ・ディランの名作「天国の扉」。70年代のディランの曲中で、一番愛されている曲ではないでしょうか。今まで多くのミュージシャンにカバーされてきましたが、あまりにも今のジボンに嵌ってしまい、彼の為に30年も前から用意されていたのでは、と皮肉にも思えてしまうのです。

 元々この曲は、サムペキンパー監督/クリス・クリストファーソン主演の映画「Pat Garrett & Billy the kid(邦題「ビリーザキッド21歳の生涯」1973年)」の挿入歌でした。映画では、ジェームズ・コバーン扮するPat Garrettが老保安官とその古女房の2人を従え、ビリーの仲間と撃合いになるシーンに使われています。

 老保安官は撃たれ、深い傷を負い、河原の岩に腰を下ろし、女房が涙で駆け寄ります。そこで流れるこの曲、「バッチを外してくれ、もう使えないから…暗くて見えなくなってきた….天国の扉を叩いている気分だ….」。

 クラプトンのレゲエバージョンのように、アレンジに凝っているわけでもありません。勿論、ディランのバージョンが一番好きですが、ジボンのテイクも気に入っています。ちなみに、この曲の最後で“Open the door”と繰り返し言っていて、いかにもジボンらしいユーモアだと思います。(私には、“扉を開けろ!これからそっちに行って暴れまくってやる!”とも聞こえますが…)

 アルバム全体ではスローテンポの少し抑え目な曲が目立ちますが、アップテンポの曲ではマイクに唾を飛ばしながら歌うジボンは健在に感じられます。収録2や8曲目はシングルカットしても十分いけると思います。ただ、正直言って、このアルバムは珠玉の名曲集というわけではないし、人によっては繰り返し聴く事でしか良さを理解できないかもしれません。それでも必ずショップの試聴コーナーに並べられるはずです、聴いてみてください。

 不謹慎ではありますが、この際にアルバム『Envoy』と『Stand in the Fire』の初CD化を望みます。彼の最近2枚のアルバム『Life'll Kill Ya(00)』 と『My Ride's Here(01)』の日本盤はSMEからリリースされていましたが、レーベル間の契約が切れ、今回のアルバムと同じ日本コロンビアから9月末に再リリースされます。サンプルを聴く限りでは、Asylum時代の音に近くなっていると思います。

 彼が告知を受けた時、癌は肺から肝臓に転移していたということで、一時は数ヶ月の命と噂されたこともあったようです。それから1年、最後にアルバムを作るという目標を持ったことが、何よりも勝る命の糧となったのではないでしょうか。



『天国の扉』:曲中のバッチとは保安官バッチのことです。映画『ビリーザキッド21歳の生涯』の前述のシーンに入る前に付箋が有ります。パット・ギャレットが老保安官を尋ねた時、保安官の仕事が暇で普段は付けないバッチを探して付けます。



追記
 2003年9月7日、午後の仮眠から覚めず、そのまま穏やかな眠りにつくように逝ったそうです。

 日本では、末期癌の告知は、賛否両論と思います。アメリカと違い、メンタル・ケアが現在の日本医療で軽視されていて、必ずしも患者が告知を受け入れられる状態ではないからではないでしょうか。

 ジボン本人、及びご家族は十分に受け止めていたそうです。

 故人のご冥福をお祈りします。そしてありがとうジボン。





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