= 再登場、天才狂気の詩人・トムウェイツ =


 Tom Waitsについては既に一度取り上げていますが、当方の思い入れもあって再登場です。

 彼のあのダミ声は駄目な人には駄目ですが、彼の音楽が好きな人には堪らないところが有ります。下手上手と形容していた人もいましたが、彼は決して音程を崩しているわけではないので、不正確な表現だと思います。

 彼の音楽は大概して3通りに分かれます。アサイラムの初期と後期、そしてアイランド以降。

 アサイラムの初期はフォークミュージック、ギターとピアノの弾き語り的な面が有りました。この頃はまださほど声も潰れていなく、万人に聴き易い作品になっています。ところが、この作風は彼の意図するものではなく、プロデューサーと大揉になったそうです。73年前後は第二次シンガーソングライターブームで仕方無かったと言えば言えます。後に発表されたデモ音源“アーリーイヤーズ1&2”では、予算の都合か、やはり同じ音の作り(ギターとピアノの弾き語り)になっていますので、それを聴いたプロデューサーはその路線を進めたかったのかもしれません。TOM自身はもっとジャージー(ジャズ色)さを出したかったそうです。

 75年頃から、段々と知名度と力を持つようになると、ジャズ色を強めていくことになります。そんな中でリリースした76年の“Small Change”が、アサイラムでリリースした作品の中では最高傑作と呼ばれています。76年の11月と12月の2つのライブを足したブート“Last Call”では、客とTOMが大のりして最高の音が楽しめます。彼のダミ声やシャウトがジャズぽい旋律に異常にマッチして心地よい音楽に酔いしれることができるのです。詩の内容は様々ですが、中心となっているのは裏人生模様です。

 80年の“Heartattack and Vine”を最後にアサイラムと決別し、アイランドに移籍する頃に(同じ時期に、恋人リッキーリージョーンズとも決別しています)、映画界からのアプローチがあります。特にコッポラに気に入られ、映画「One From the Heart」では全編でクリスタル・ゲイルとデュエットを披露しています。但し、TOMは当初ベット・ミドラーとの共演を希望したそうです。これを契機に彼の音楽は舞台(視覚)と結びついた音に変化をしていきます。

 アイランドでの彼の地位を確立したフランク3部作「Swardfishtrombones(83)」「Rain Dogs(85)」「Frank Wild Years(87)」では色々な音の作り方を試し、無国籍な音楽になっています。勿論それが散漫でなく上手く形になったことが現在の彼の評価に繋がったのです。獣のように叫んでいる曲も有れば、バラードな曲「Time(Rain Dogs収録)」やメロディアスな曲「Innocent When You Dream(Frank Wild Years収録)」も有ります。

 「Big Time(88)」「Night on Earth(92)」「Black Rider(93)」「Alice(02)」「Bloody Money(02)」は舞台に合わせて作られた作品になっています。特に「Big Time」はTOMの独演舞台ライブのサントラ盤で、映像は既に廃盤になっていますが、未だにそこそこの値で、オークションで落とされています。

 アイランド以降の作品ではかなりジャズ色が押さえられていますが、ライブではアサイラム後期の曲も取り上げていて、随所でジャージーさが見え隠れしています。99年のヨーロッパを中心とした音質の良いブートが多数存在し、「121 Tears in a Short Glass」「At the Circus」等がお薦めです。特に前者では、「Innocent When You Dream」を客と一緒に何度もサビの部分を繰り返し唄うなど、最高のパフォーマンスを聴かせてくれます。

 あまり通な事は書けませんが、興味を持っていただければ幸いです。残念ながら、ギャラが高すぎて、日本公演は実現しそうもないようです。



* スプリングスティーンですら、デビューアルバムは思い通りに出来なかったそうです。彼はアコースティックで録音されたデモ曲を、いざ録音の時はエレキギターを主張したそうです。プロデューサーからは勿論拒絶され、ディランズチルドレンの1人として世に出たのです。
* BIG TIMEの公演を抜かして、現在でもそうらしいですが、彼のステージはピアノを前にして、下品(?)な会話で会場を盛り上げ、ピアノを軽く鳴らして曲間をつないでいくパターンがあるそうです。
* Big Timeのビデオは、オークションではUS$30〜40ですが、中古だと状態が良ければ4倍以上に跳ね上がります。日本ではLDでもリリースされていたそうです。
* TOMの曲のカバーは難しく、EAGLESは曲を壊して自分達の解釈を与えることで成功しましたが、ホリーコールやロッドスチュワートのカバーの評価を聞いたことがありません。そのEAGLESのカバー“Ol’55”についてTOMは、“ターンテーブルの埃避け”“お子様アレンジ”と言ったそうです。但し、彼は一切誉めることをしないので、コメントすること自体が評価なのかもしれません。





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